ブラック・サバスがオリジナルメンバーで再結成した1997年。
その翌年、ライブ録音に新曲4曲を加えてリリースされたのが、この『レユニオン』だ。
当時はまだ少なかったブラック・サバスのグランジやオルタナへの影響を紐解いたライナーノーツを再掲!
アルバム『レユニオン』について
Trunk Room Library 蔵書:視聴可(CD/配信)
すっかり忘れていたのだけど、このアルバムの日本盤ライナー、ぼくが書いていたんです。
1998年なので、25か26歳の時のこと。
しかも、HR/HM評論の重鎮・伊藤正則氏の解説との2本立て。
何様だ、いいのか、自分?!と、この大抜擢に今考えると畏れ多くなるけれども、読み返してみると、若さゆえの粗さはあるものの、シーンの捉え方、論の立て方としては、非常によく書けている(気がする)。
神童だったのか、自分?!
というのは自惚れすぎだろうが、とうとう正式に解散し、オジー・オズボーンが亡くなった今、読み直すと、感慨深いものがある。
現在では、オルタナティブとHR/HMを繋ぐ架け橋として、ブラック・サバスを捉える論調は一般的になっているが、1998年当時、その見方をしていた評論家は、ほとんどいなかったと思う。
というわけで、オジー追悼の念も含めて、再掲しておきます。
text by Hiroshi Sugiura
関連映像
配信サービス/サブスク
BLACK SABBATH『REUNION』ライナー再掲
突然、ニルヴァーナやパールジャム、マッドハニーなんかのバンドが登場して1976年以前の歴史を再発見しようとしているのがすごく面白かったんだ。あまりにラディカルだったから驚くしかなかったよ。パンクロックの流れにおいてブラック・サバスがヴェルヴェット・アンダーグラウンドと肩を並べるほどに影響力を誇るバンドとして浮上してきたわけだからね。
サーストン・ムーア from ソニック・ユース(『ロッキング・オン』1998年11月号)
米オルタナティブ・シーンきっての理論家とも言うべきソニック・ユースのサーストン・ムーアは、自身の半生を語ったインタビューで、1990年代初めにシアトルで突如勃興したグランジ・シーンを振り返って語ったこの言葉が、ここで僕の伝えたいことのほぼすべてを言い表している。
グランジに大きな影響を与えたオリジナル・ブラック・サバスのダイナミズム
ブラック・サバスの全キャリアを熱心に追いかけてきたコアなファンからすれば、ブラック・サバスがNYアンダーグランドシーンを支えてきたヴェルヴェッツなどと同等に語られるのには、少し違和感を覚えるかもしれない。
もちろん僕もブラック・サバスが現代ヘビーメタルのゴッドファーザーであることを否定したいわけではない。
ただ、これだけは言っておきたい。
オリジナル・メンバー期のサバスは、現在のグランジのダイナミズムを結果的に引き出した存在だったということは、もっとクローズアップされるべきだ、と。
例えば、ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』、パールジャムの『TEN』を聴き返してほしい。
90年代ロックを根本的に覆したこの2つの作品から伝わってくるのは、初期ブラック・サバスがいかにグランジのひな型を作っていたか、ということでもあるのだから。
実際、現フー・ファイターズ(元ニルヴァーナ)のデイヴ・グロールもこう語っている。
「オジーがいた頃のサバスがなかったら、俺たちは存在してないよ。もちろんニルヴァーナもね」
初期サバスのナンバーに聴くことができる、不安感を煽るような半音で進行していくコード展開、ヘヴィーかつダークなリフの鋭さ、ときに呪文のようなヴォーカルーーそのどこを切り取っても、グランジ/オルタナのアーティストがやろうとしていたサウンド・スタイルに方法論的な裏付けを与えたことに異論を挟む余地はない。
そう、グランジの力学の根底には、確実にサバスの方程式が存在していたのだ。
ジャンルだけでなく時代の架け橋でもあったブラック・サバス
もう一つ、その証明となるのが、オジー・オズボーンが主宰するオズ・フェストだろう。
幸運にも、僕は1998年6月にイギリスのミルトン・キーン・ボールで行われたオズ・フェストを体験できたのだが、行く前はオルタナの聖域=ロラパルーザを凌駕したフェスという興味本位でしかなかった。
ただ、観終わった後では、「再結成ブラック・サバス」というキーワードが持つ求心力に打ちのめされてしまったというのが事実だ。
このフェスティヴァルに出演したのは、パンテラ、スレイヤー、ソウルフライ、フィア・ファクトリーといったヘヴィーロックの強者、そして彼らと対象的なフー・ファイターズ、セラピー?といったオルタナ系のアーティスト。
これまで決して交わらず、平行線を辿っていたヘヴィーメタル/オルタナという相反したジャンルのラインナップをオーディエンスはどのように受け入れていくのか?と不安でたまらなかったのだが、驚くべきことに、僕が目の当たりにしたのは、この2つの潮流がポジティブに歩み寄りを始めていたということだった。
その意味で、再結成ブラック・サバスは、まさに両者の溝を埋めている存在だったのだ。
老若男女問わず――そう、入れ墨に革ジャンの青年からマリリン・マンソンのメイクを施した少女、いかにもヒッピー崩れの中年まで、ここに集まってきた6万人すべてを巻き込んでいくステージを体験してみれば、ジャンルだけはなく、時代の架け橋となっていたとしか言いようがない。
ロック史のなかのブラック・サバス
ここからは私論になってしまうが、例えば、冒頭に引用したサーストン・ムーアの発言のなかの「76年」というキーワードについて、サバスや当時のシーンと絡めて説明したい。
サーストンがパンクの誕生を指して、この年を引き合いに出したのは明らかだが、いみじくもオジーがサバスをいったん離れた年でもあった(77年に復帰するが、またすぐ解雇される)。
オジーがバンドを離れたのはアルコール中毒が原因とされているが、そんな私的な理由でさえ、後々振り返ってみると、確実に時代の流れとリンクしているところが、オジーの非凡さを象徴しているようにも思う。
この時期、ロックはパンク・ニューウェーブとハードロックという音楽的な要素だけでなく、思想的、産業構造的にも、まったく相いれない垣根ができてしまった。
そして、その2つの流れの末裔であるオルタナティブもヘヴィーメタルも、どちらも終焉が叫ばれ始めた90年代後半、サバスはと言えば、オジーがバンドに戻り、再びオリジナルメンバーでの活動を開始した。
本人たちが、そういった時代の流れに意識的であるかどうかは別として、現在の混沌としたシーンの溝を埋める救世主として、再結成ブラック・サバスは、時代の要請を真っ向から受けているとしか言いようがない。
オズ・フェストで観たサバスのステージ、そして今作を聞いて確信したのは、そういうことだ。
サバスへのリスペクトを表明するオルタナ系アーティストたち
最後に、いわゆるHR/HM系ではないアーティストによるブラック・サバスへのリスペクトをいくつか紹介しておきたい。
まず、レッド・ホット・チリ・ペッパーズはライブで代表的なナンバー”ギヴ・イット・アウェイ”の直後によく”スウィート・リーフ”のリフを挟むことがあるし、サウンドガーデンもシングルで”イントゥー・ザ・ウェイト”をカヴァーしている。
また、「僕が文字通り擦りきれるまで聴いたレコード派、ブラック・サバスだけだ」と言い切る元フェイス・ノー・モアのマイク・ボーティンは、オズ・フェストでのオジーのソロ・アクトではドラマーを務めていた。
他にもスウェディッシュ・ポップのキラ星カーディガンズによる”サバス・ブラディ・サバス”やイギリス・グラスゴーで活動するサイケデリック・ギター・ポップの新星モグワイによる”スウィート・リーフ”と言った珍品までCD化されている。
各アーティストによって、楽曲の解釈は様々だが、そうであるからこそ、この再結成ブラック・サバスが現在のロック・シーンにとって、重要かつ祝福された稀有な存在だということが浮き彫りになってくるだろう。
『リユニオン』収録曲
ディスク1
ウォー・ピッグス “War Pigs” – 8:28
眠りのとばりの後に “Behind the Wall of Sleep” – 4:05
N.I.B. “N.I.B.” – 6:44
フェアリーズ・ウェア・ブーツ “Fairies Wear Boots” – 6:19
エレクトリック・フューネラル “Electric Funeral” – 5:01
スウィート・リーフ “Sweet Leaf” – 5:07
スパイラル・アーキテクト “Spiral Architect” – 5:40
イントゥー・ザ・ヴォイド “Into The Void” – 6:31
スノウブラインド “Snowblind” – 6:07
ディスク2
血まみれの安息日 “Sabbath Bloody Sabbath” – 4:36
オーキッド / ロード・オブ・ジス・ワールド “Orchid / Lord of This World” – 7:06
きたない女 “Dirty Women” – 6:29
黒い安息日 “Black Sabbath” – 7:29
アイアン・マン “Iron Man” – 8:20
チルドレン・オブ・ザ・グレイヴ “Children of the Grave” – 6:30
パラノイド “Paranoid” – 4:29
サイコ・マン “Psycho Man” – 5:19
セリング・マイ・ソウル “Selling My Soul” – 3:09
参加ミュージシャン
オジー・オズボーン – ボーカル
トニー・アイオミ – ギター
ギーザー・バトラー – ベース
ビル・ワード – ドラムス
アディショナル・ミュージシャン
ジェフ・ニコルス – キーボード、ギター




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